夏が来ると思い出す

早くも夏本番ですね。

夏になると思い出す・・・あの忘れられない出来事を紹介します。

今から約20年前、バイク少年だった頃、当時付き合っていた彼女と、友達数人で長野方面にツーリングに行った時のこと。

バイクにキャンプ道具一式を積んでキャンプ場のある戸隠方面に向かっている途中、急激な天候悪化による雷雨。これ以上走行するのは危険と判断し、とある古ぼけたビジネスホテルに滑り込んだ。

チェックインを済ませ、ひどく年季の入った薄暗いエレベーターに乗り込むと“ガクン”とめまいにも似たような沈み込みをしたあと、音もなく静かに上昇を始めた。

4階のエレベーターからさほど遠くない部屋の鍵を開けると、擦り切れた絨毯にタバコの匂いの染み付いた、いかにもという部屋。

これまで幾人ものビジネマンに、ひと時の安らぎを与えてきたこの空間。チープで極端に簡素化された作り。色々な男達の人生の一コマが時間を超えて交差する場所。なんだか感傷に浸る自分がいる。

しかし、彼女と一緒に泊まるには雰囲気的にそぐわない。が、緊急事態なので仕方がないだろう。

何よりも、長距離を走行してなお、急な雷雨に打たれて、ずぶ濡れになった自分たちには、この上ないほどありがたい空間であった。

濡れた衣類を脱ぎ、熱いシャワーを浴びたあと、ベットに潜り込んで泥のように深い眠りについた。

しばらく時間が過ぎた頃、隣に寝ている彼女が首をもたげて足元を覗き込むような仕草を幾度となく繰り返す。

違和感を感じたが疲れていることもあり、さほど気にもとめず、また目を閉じる。

それからどれくらいの時が過ぎただろうか。ふと足元に気配を感じるので目をやると、そこに彼女が呆然と立っているではないか。

きっと暗い部屋でトイレの方向がわからなくなったのだろう。

起き上がり“トイレはそっちじゃないよ、こっちだよ”と、腕を掴もうと手を伸ばすと何故か掴むことができない。

え?! と、声を上げたと同時に、隣のベッドから、恐怖に震えた声で“そこにいるのは誰なの!?”と声が聞こえた。

目の前にいるはずの彼女が隣のベッドに横たわっているじゃないか!!

真っ暗な部屋の片隅。そこには彼女と年格好の似た彼女以外の何者かが佇んでいるのである。

目の前で起こった事態に対し、何故か咄嗟の判断で冷静さを装い、“なんでもない、寝よう”と落ち着いた声とは裏腹に慌てふためき、頭から布団を被った。

きっと自分の見間違いか何かに違いない。だいぶ疲れているし、寝ぼけてしまったんだろう。・・・そう思い込もうとしたのかもしれない。

それと同時に、そこにいる相手に対し、物理的に何もできないことを瞬時に悟った自分

彼女も悟ったように息を殺して何も言わない。

2人で頭から布団をかぶり、息を潜めていると、ベットの周りを“スッスッスッ”と、すり足で歩く音が。永遠と感じられるほどにしばらく続いていた・・・。

そのうち気を失うように眠りについてしまった。

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