シリーズ『気ままにかつしか遺産』
~豆腐売りのラッパの音~
夕方5時半・・・
金町公園で遊んでいる子ども達も、お腹がすいてくる時間。
近所の家でもそろそろ晩ごはんの支度がはじまる頃、ラッパの音が夕暮れの住宅街に響き渡る。
「ト~、フ~」
日本の原風景までも彷彿させる音色。
思わずこの音に反応してしまう私・・・。
(生まれ育った年代がバレてしまう)
どこで鳴っているのか? 誰がならしているのか?
・・・探さずにはいられない。
「いた!」
しかも、昔ながらのホントのお豆腐屋さん。
若林 貴登志さん(61)
おじさんは20歳でこの仕事を継いで、昭和50年から移動販売を続けているという。
毎日午前10時に店を出発し、バイクで区内を回りながら豆腐を販売。
その距離一日およそ40キロメートル。
「お客さんの意見を聞きながら少しずつエリアを広げてきた」と40年かけて培われた営業のノウハウを語り始めた。
「昔は自転車だったから、「くそじじい!」と怒鳴り蹴とばされ、自転車を倒されたこともあった。
犬に吠えられることだってある。
それでも諦めず、毎日同じ時間に同じエリアを回っていると、窓から外を見ている子どもが手をふってくれたりして、徐々に“信頼”が生まれ、買いに来てくれる人が増え、長年この仕事を続けてこれた。
息子からも「75歳まで続けてほしい」といわれているよ」
「今のように紙おむつが普及していない時代には、赤ん坊が生まれるとベランダに布おむつが干してあったから、そんな家の前を通りすぎる時は(起こさないように)ラッパも鳴らさないようにしたもんだよ。昔はさ、人の繋がりとか人情とか・・・そういうのあったよ」
・・・豆腐売りを通じて、時代の移り変わりを誰よりも敏感に感じていたのかもしれない。
初めて本物の豆腐やさんのラッパを吹かせてもらった。
なかなかおじさんみたいにいい音がでない。
「夏はこんにゃくは売れないから」と季節限定で“ところてん”も売っている。
目の前で「天突き」に入れ押し出すと、細長く見た目も涼しげなところてんが出てくる。
なんとも風情あるナイスパフォーマンス!
きっと今の時代「豆腐売りのラッパ」も「ところてんの天突き」も、知らない子どもは多いだろう。
現在、昔ながらのスタイルで豆腐売りを続けているのは、区内では(若林さんを含めて)2人だけなんじゃないか?
とおじさんは言う。
冷たい水の中から取り出す「手作り豆腐」。
おじさんの日焼けした黒い腕に掴まれた真っ白な豆腐が、やさしく「ぷるん」と揺れた。
・・・おじさんの豆腐は食卓に並んだ時も「ラッパの音」が聞こえてくる。
※最近おじさんは、この「天突き」を落としてなくしてしまったらしい。
もし、かつしかのどこかで「天突き」を拾った方は、おじさんに届けてください。
若林豆腐店
葛飾区青戸2-9 – 14
TEL 03-3693-0689